見出し画像

〈事業レポート〉DXにより新たなスポーツツーリズムを目指す鹿島アントラーズの取組

 1試合平均、約2万人(2019年度)の来場客数を誇る鹿島アントラーズ。ところが、そのアントラーズの本拠地を擁する鹿嶋市のほか、周辺の潮来市・神栖市・行方市・鉾田市からなる通称「鹿行(ろっこう)地域」では、訪れる人々の短い地域滞在時間、低い観光消費額が課題とされてきました。

 そこで鹿島アントラーズのファン・サポーターを周辺エリアに誘客することで、地域の観光産業を活性化させようというのが、観光庁が主導する「これまでにない観光コンテンツやエリアマネジメントを創出・実現するデジタル技術の開発事業」に採択された「鹿島アントラーズを基軸としたエリアマネジメントの変革」事業です。

 実証実験の対象となったのは、11月に行われた3試合。NFC(※近距離無線通信)タグによる周辺地域でのスタンプラリーや、ダイナミックプライシングを導入した混雑対策など、先進的な施策が講じられました。「鹿嶋デジタルトランスフォーメーションコンソーシアム」に取組の成果を聞きました。

鹿島アントラーズ取材レポート_02

▼実証実験を経て見えてきた課題と改善点

 去る11月27日(土)に行われた2021明治安田生命J1リーグ第37節、鹿島アントラーズvsサガン鳥栖の1戦。この日も会場には多くのファン・サポーターが詰めかけました。

「11月の3試合を対象に実証実験を実施し、この日が3回目の取組となります。まず、ダイナミックプライシングを取り入れたスタジアム内の実験店舗では、1回目と3回目は笠間産の栗を使ったモンブランを、2回目はつくば市の洋菓子店の生チョコサンドを提供いたしました」(株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー マーケティンググループ セールスチーム・矢橋伸一氏)

 今回の実験では、モンブランは550円(閑散時)、800円(平常時)、1,050円(混雑時)、同じく生チョコサンドは900円、1,200円、1,500円と価格を3段階に設定。つまり、混んでいる時には高く、空いている時には安く提供することで、混雑回避と効率的な販売を目指しました。

画像2

 スポーツイベントにおける施策としては画期的ですが、3度の実証実験を経て、課題も浮き彫りになったと矢橋氏は言います。

「3度の販売ではいずれも価格変動がほぼ見られず、全て最安値での提供となりました。その原因としては、予約から購入までの操作をなるべく簡素化したことから、そもそも待機列が生まれにくくなったこと。そして、オンラインで価格をチェックできる仕様であったため、あらかじめ最安値のタイミングを狙って購入できることの2点が考えられます。ただし、近隣の売店は時間帯によっては長い待機列を作っていたのに対し、実証実験店舗は時間帯にかかわらず満遍なく人が訪れる状態を保つことができました。これは1つの成果でしょう」

 売上げ自体は好調であったことを踏まえれば、混雑回避の目的は十分に達成されたと言えるでしょう。

▼スタンプラリーで期待以上の周遊効果も

 一方、カシマスタジアムから周辺地域への回遊については、「しか旅」と名付けられた特設サイトを立ち上げ、NFCタグを用いたスタンプラリー形式で、ポイントに応じてクラブ公式グッズと交換できるサービスが展開されました。

「地域内の飲食店やドライブインなど、全41か所のスポットにNFCタグを設置し、最終的に3,500回超のチェックイン数が得られました。運用中、技術面で特に大きなトラブルに直面することもなく、200回を超えるグッズ交換があったことから、こちらも成果は上々であったと考えています」(矢橋氏)

鹿島アントラーズ取材レポート_04

 これにより参加店舗にどの程度の経済効果が生まれたのかは現在調査中とのことですが、予想を上回る実績は、今後の取組への糧となります。

「ただ、実験期間中には商品を購入せずチェックインのみのために入店される方や、飲食店ではオーダーだけして食事も支払いもせずに去ってしまう迷惑行為も確認されました。想定以上の反響があっただけに非常に残念ですが、今後は対策を講じて、ブラッシュアップに繋げていきたいと思います」(同)

 こうした課題とひとつひとつ向き合うことで、地域活性化に紐付いた新たなスポーツツーリズムの在り方を模索していきたいと語る矢橋氏。

 このほか、スタジアム内に設けられたVR体験ブースでは、バーチャルなサッカーゲームを目当てに列ができるなど、DXの観点からもひとまず成功を収めたと言える今回の取組。最大4万人超を収容できるカシマスタジアムだけに、今後さらなるビッグイベントにおいて、得られたノウハウがどのように生かされるのか楽しみです。

鹿島アントラーズ取材レポート_05

「この経験を生かして、たとえばスタジアム内の飲食店ではダイナミックプライシングだけでなく、観戦席までのデリバリーサービスや場外イベントへの誘導施策に繋げ、コンコースの混雑緩和、すなわち観戦満足度の向上に努めていきたいと思います」(同)

 鹿島アントラーズのこれからの取組に期待しましょう。

画像3

▼関連記事

最後に……
「観光」×「DX」で実現する新しい観光コンテンツの情報発信をTwitterでも日々つぶやいています。是非チェック&フォローをお願いします。 【Twitter】https://twitter.com/digitalxproject

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!