3つのオンラインコンテンツで瀬戸内市を「日本刀の聖地」に!
「日本刀の聖地」として認知を広げ、ブランドを確立するために尽力してきた岡山県瀬戸内市。昨年には上杉謙信ゆかりの名刀「山鳥毛」を、地域の「備前長船刀剣博物館」に所蔵しようとスタートさせたクラウドファンディングの成功が大きな話題を呼びました。
そこで今回、観光庁が主導する「来訪意欲を増進させるためのオンライン技術活用事業」に採択されたのが、株式会社日本旅行を中心に瀬戸内市も加わって実施される「日本刀の聖地・瀬戸内市 オンライン文化振興オーナー育成プロジェクト」です。
刀剣ブームという追い風を受けながら、デジタル技術を駆使したブランディングの手法と、目指す先について話を聞きました。
▼名刀「山鳥毛」が800年ぶりに里帰り!
かつて備前と呼ばれた瀬戸内市は、鎌倉時代から江戸時代にかけて、日本一の刀の生産地として広く知られていました。その背景について、株式会社日本旅行の小松由香莉さんは次のように解説します。
「日本刀を作るには玉鋼(たまはがね)という鋼や燃料が欠かせません。瀬戸内市が位置する備前地域はそれらの原材料が集まる地理的な理由と、更には古くから刀鍛冶が住んでいたことで作刀技術が発達していたため、現在、文化財に指定される日本刀のおよそ半数が備前地域で作られたものとされています。先だって話題になった山鳥毛もそうした備前刀の1つで、この御刀は長らく個人で所蔵されており、瀬戸内市はこれを買い戻して地域に里帰りさせることで今一度、“日本刀の聖地”としての地域活性化につなげようと取り組んできました」
その資金作りのために活用されたのがクラウドファンディングであり、山鳥毛は既に5億円を投じて買い戻され、「備前長船刀剣博物館」に収蔵されています。山鳥毛が長船に帰ってくるのは、実に800年ぶりのことなのだそう。
日本各地で刀剣関連の展覧会が相次いで開催されるなど、空前の刀剣ブームに沸いている昨今。山鳥毛の里帰りプロジェクトに続き、さらなる仕掛けを講じるには絶好のタイミングと言えるでしょう。
「やはり刀剣ブームの影響は大きく、コロナ以前は『備前長船刀剣博物館』の来場者数も年々増加傾向を見せる盛況ぶりでした。他県はもちろん、海外から訪れる方も多く、備前刀が観光コンテンツとして大きなポテンシャルを持っていることをあらためて実感させられました。そこで今回のプロジェクトでは、瀬戸内市内の刀匠をはじめとする刀職の皆さんの協力を得ながら、オンラインコンテンツを通してさらなるファン作りを目指したいと考えています」(小松氏)
▼3つのオンラインコンテンツで「オーナー」を育成
今回準備しているオンラインコンテンツは大きく3つ。デジタル技術を活用することで来訪意欲を増進し、瀬戸内市観光の熱心なファンの育成を図ります。
「まず1つ目が、国宝にも指定される山鳥毛の特別公開ガイドツアーです。備前長船刀剣博物館の学芸員の解説を交えながら、参加者の方にはアプリを介して刃文(※刀身に表れる波模様のこと)など刀剣の細かな部分まで鑑賞していただきます。次に、刀匠への取材映像を通して、日本刀の製作過程と伝統の技術を公開。参加者には事前にガイドブックを送付し、日本刀文化と職人の魅力を深く味わっていただきます。そして最後が、瀬戸内市内のオンラインツアーです。こちらは殺陣ショーや能の上演等リアルでの催しを取り入れたハイブリッド型の配信企画で、地域への誘客に結びつけようというものです。また、このツアーの特典として、備前長船刀剣博物館の展覧会をバーチャルで鑑賞できるコンテンツも提供。こちらはMatterport(※マッターポート。AI機能や独自の赤外線スキャンカメラにより、現実空間を3Dで再現するクラウドサービス)という最先端VR技術を用い、実際に博物館にいるような臨場感を体感できます」
つまり、オンラインコンテンツによって「モノの魅力」と「ヒトの魅力」を伝えた上で、瀬戸内市のモノとヒトに出会ってもらうきっかけ作りをしようというのがこの取組の狙いであり、9月末頃からこれら3つのコンテンツを順次スタートさせる予定です。
なお、今回のプロジェクトでは瀬戸内市観光の熱心なファンを、「オーナー」と表現しているのも特徴の1つです。
「単にコンテンツを見て消費するだけの関係や浅い関わりのファンではなく、“日本刀の聖地”としての瀬戸内市を一緒に盛り上げるために何ができるかを考え、共に支えてくれる文化の担い手を育成するのが私たちの願いです。今回の事業を通して、日本刀や職人の方々の魅力を体感して実際に足を運んでいただける関係を育み、将来的には地域の文化振興を生み出す一員となっていただければ理想的ですね」
いわばCRM(顧客関係管理)の概念を取り入れたこの取組。「日本刀の聖地」の今後の盛り上がりに注目しましょう。
最後に…
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