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通訳ガイドと外国人観光客を仮想空間で繋げる姫路エリアの取組

 海外からの旅行者が日本の観光地に求めるニーズは、年々、多様化しています。ただスポットを巡り、お土産を買うだけでなく、近年では “人”を介した「コト消費」を望む声が高まっているのです。そこで各地で活躍しているのが通訳ガイドなどの案内人です。

 ところが、このコロナ禍によって外国人観光客は激減。通訳ガイドの活動の機会も失われてしまいました。

 今回、観光庁が主導する「これまでにない観光コンテンツやエリアマネジメントを創出・実現するデジタル技術の開発事業」に採択された「次世代型ガイド価値拡張プラットフォーム事業」では、姫路エリアにVR技術をベースにした360度仮想空間を再現し、「観光×DX」による新たな観光モデルの構築を進めています。

▼360度仮想空間で姫路の街を再現

「今回のプロジェクトでは、姫路エリアを360度カメラで撮影し、映像を編集したうえでリアルな“動く仮想空間”を構築します。ユーザーはあたかも実際に姫路エリアを歩いているかのような視点で、観光を楽しむことができるようになります」(株式会社JR西日本コミュニケーションズ・新森恵太氏)

 なお、姫路エリアを実証フィールドに選定した理由は、インバウンド需要が更に盛り上がるポテンシャルを秘めているエリアであることが大きいと新森氏は語ります。

「関西エリアは2025年の大阪・関西万博や、なにわ筋線の開業などを控えています。その際、日本を訪れる外国人観光客の方に、もう1歩足を伸ばしてもらえる地域として、世界遺産の姫路城や天台宗の古刹・書寫山圓教寺のほか、著名な日本酒の酒蔵を擁するなど、和の情緒を伝えるコンテンツを多く備えている姫路エリアは魅力的で、人気スポットになるポテンシャルを秘めていると我々は考えています」

 そして、こうした土地の魅力を掘り下げながら、更に「コト消費」を重視することで、地域の観光資源を掘り起こしていくことが今回のプロジェクトの目的の1つです。

▼観光客が求めている「コト消費」とは何か

 では、近年の外国人観光客が求めている「コト消費」とは、具体的にどのようなものか。

「コト消費とは体験のことです。通訳ガイドの方にヒアリングすると、『日本で散髪をしてみたい』、『学校の授業を受けてみたい』、『炬燵に入って暖まりたい』……などなど、我々の側からすると思いも寄らないリクエストが多数あることが分かります。外国の方にとっては、靴を脱いで部屋に上がるという体験からして既に新鮮であり、そうした視点を重視して観光ルートをプランニングすることで、より満足度の高い観光コンテンツを作ることができるはずです」

 つまりポイントは、360度移動視点リアル映像の合成技術によって構築した仮想空間上で、外国人観光客と通訳ガイドの関係性を構築し、「コト消費」を実現させることにあります。

 この360度仮想空間では、ユーザーが自由にプランニングした経路に応じて映像が自動生成されるため、姫路の街を散策しているような自然な没入感を演出。そして、仮想空間を通訳ガイドの活躍の舞台とし、一人ひとりが持つ独自の観光情報を掲載することで、よりディープな姫路の魅力を発信しようというわけです。

 通訳ガイドとひとくちに言っても、歴史に詳しいガイドもいれば建築やお酒に詳しいガイドもいます。それぞれ得意とする分野や領域は異なるため、ガイドの数だけ個性的なコンテンツがあり、それらを視点が360度移動できるリアルな仮想空間とかけ合わせることで、新しい観光スタイルの提供になることでしょう。

 実証実験は今年の10月~11月を予定。新技術の開発に加え、バリエーション豊かな通訳ガイドの選定を進めています。

資料②_JR西コミュ

▼課題はリアルでの訪日への流れの創出

 こうした仮想空間での試みを、いかにリアルな訪日につなげていけるかというのもポイントの1つ。理想はやはり、仮想空間上で姫路エリアの魅力を体感した人が、アフターコロナには実際に姫路にやって来ることであり、それによって地域が活性化することでしょう。

「今回の取組をいかにマネタイズするかということも、今後の検討材料だと思っています。たとえば仮想空間の自由散策は無料に、通訳ガイドによるツアーは有料にといった課金も考えられますし、行く行くは仮想空間上のショップで買い物が楽しめるような仕組み作りも可能性としてはあり得るでしょう」

 なお今回の実証実験では、「訪日需要が高い」「英語圏」「時差が少ない」という3つの理由から、豪州とシンガポールの訪日旅行予定者をターゲットに選定しているとのこと。

「西日本エリアにはまだまだインバウンド需要の拡大が見込める地域がほかにもたくさんあります。今回のプロジェクトが成功すれば、この技術をほかの地域に横展開することも考えていますし、将来的にはインバウンドだけでなく、国内の高齢者や体の不自由な方に向けた展開なども考えていきたいと思っています」

 観光体験を大きくアップデートさせる姫路エリアの取組。実証実験の成果にご期待ください。

資料③_JR西


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