XR観光バスツアーで横浜エリアのポテンシャルを再発掘!
みなとみらいや元町、中華街など、首都圏でも有数の観光地として知られる横浜エリア。しかし知名度の高さに反して、このエリアでは長らく、観光客の消費金額の低さが課題として挙げられてきました。
今回、「これまでにない観光コンテンツやエリアマネジメントを創出・実現するデジタル技術の開発事業」に採択された「XR技術(※1)を用いた屋外周遊型XRテーマパーク開発事業」では、横浜エリアにXR観光バスツアーを導入することで、更なる観光客の誘致と消費拡大を狙う取組が進められています。
▼横浜エリアに仮想現実の世界が出現
「東京という大都市に隣接する横浜は、どちらかといえば日帰り観光がメインになりがちで、それゆえに観光消費が伸びにくい側面がありました。また、景観そのものが観光資源になっているため無料で過ごせるスポットが多いことや、インバウンド需要の開拓が遅れていることなども、このエリアが抱える課題です。そこで現在取り組んでいるXR観光バスツアーでは、横浜に新たな付加価値を創出することを目的に、観光バスのDX化に取り組んでいます」(京浜急行電鉄株式会社・野元淳氏)
XR観光バスツアーとは、文字通りXR技術を駆使し、横浜エリアに出現させた仮想現実世界をガイドするもの。京浜急行電鉄ではすでに、今年3月に関係者のみを対象とした無料デモンストレーションを、6月には一般モニターを募集して有償ツアーを実施するなど、着々とモデルの構築に努めてきました。
その技術面を担うのは高度な位置情報の技術力を誇る東大発ベンチャーである株式会社シナスタジアです。自動運転車向けの3次元地図開発などに取り組んできたシナスタジアの先端技術を生かして、観光バスのアトラクション化が進められています。
「弊社のコア技術は位置情報技術で、デジタルデータとリアルの空間を重ね合わせることで、現実空間におけるXR体験を実現します。観光バス事業は国内で4,000億円規模の市場を持ちながら、これまであまりサービスの革新が進められて来ませんでしたが、このXRの技術で新たな需要の掘り起こしが可能ではないかと考えています」(株式会社シナスタジア・有年亮博氏)
前述の2度に渡る実証実験では、いずれも高い満足度が確認されたと言う両氏。今回の開発事業では観光庁とタッグを組み、世界初の技術を開発してより高精度な仮想現実を表現しようと、今年11月に予定している実証実験へ向けて準備を進めています。
▼オクルージョン技術で更なる没入感を
では、XR観光バスツアーで見られるのは、具体的にどのような世界なのか?
「過去2度に渡る実証実験では、横浜三塔の愛称で知られる神奈川県庁、横浜税関、横浜市開港記念会館の3つを、それぞれトランプのキング・クイーン・ジャックに見立ててファンタジックな世界観を表現しました。いわば、魔法世界になぞらえたもう1つの世界と重ね合わせながら、横浜の街を案内した形です」(野元氏)
バスに揺られながら、VRゴーグル越しに県庁を見ればキングが、税関を見ればクイーンが登場するなど、現実世界と仮想世界のリンクが実現した過去2度のXR観光バスツアー。11月からの実証実験では、更に高度な世界観の演出を目指します。
「こうしたXR体験において重要なのは没入感です。そのためには更なるリアリティの追求が不可欠で、今回のプロジェクトではオクルージョン技術を実現させることが1つのカギになると考えています」(有年氏)
オクルージョンとは、手前に存在する物体がその背後にある物体を隠す状態のこと。つまり、車窓の向こうの仮想空間を見る際、その手前にある窓枠やほかの乗客の姿が視界に残されることで、あたかも本当にその世界に身を置いているかのような表現が実現するわけです。
「観光バスという移動体であること、そして屋外で太陽光の影響を受けることなど、技術面の障壁は少なくありません。しかし、それらをひとつずつクリアしていくことで、リアルとヴァーチャルを理想的にミックスさせることができます」(有年氏)
こうしたXR体験では、没入感の演出がそのまま乗客の満足度に直結すると語る有年氏。目下の課題は、屋外の移動体という特殊な環境下におけるオクルージョン技術の実装で、まさにこれこそが今回のプロジェクトの大きなポイントと言えるでしょう。
▼鉄道路線への横展開も視野に
11月の実証実験では更に、著名クリエイターやVTuberとのコラボレーションを予定。世界観の表現を広げることはもちろん、そのインフルエンス力による集客効果も大いに期待されます。
「横浜エリアは広い面積を持っていることもあり、点での消費を作ることはできても、なかなか面での消費に繋がらない悩みを抱えていました。その点、こうしたXR観光バスツアーであれば、観光客の回遊を促しながら、その体験そのものを商品化することが可能です。点在する観光資源を有機的に繋ぎ、街全体をテーマパークのように楽しんでえるようになれば、自ずと消費単価も上がるのではないでしょうか」(有年氏)
なお、将来的にはほかの地域はもちろん、ほかの交通インフラへの展開も想定していると野元氏は言います。
「今回新たに開発する技術はバスに限らず、あらゆる乗り物に実装できるものです。当然、鉄道への応用も想定しており、例えば三浦半島など沿線の観光スポットの底上げにも活用していけるのではないかと期待しています。視野に入れているのは〈観光DX×交通DX〉で、仮想空間での広告表現や、EC(※2)との連動によるショッピング体験など、提供できるサービスはまだまだ多岐に渡ると思います」(野元氏)
XR観光バスツアーの先には、XR鉄道によるストレスフリーな通勤が実現する日がやって来るかもしれません。引き続き、11月から始まる実証実験にご注目ください。
【用語説明】
(※1)XR技術
VR(Virtual Reality(仮想現実))、AR(Augmented Reality(拡張現実))、MR(Mixed Reality(複合現実))などの先端技術の総称で、今後さまざまな領域での活用が期待されている技術。
(※2)EC
「Electronic commerce(電子商取引)」の略語で、インターネット上での商品やサービスの売買や決済、サービスの契約などを行うことを指す。