鹿島アントラーズが取り組む、スポーツツーリズムを通した観光振興施策
鹿島アントラーズの本拠地である茨城県鹿嶋市・潮来市・神栖市・行方市・鉾田市からなる通称「鹿行(ろっこう)地域」。この地域では長らく、「誘客人数の低調」、「低い観光消費額」、「短い地域滞在時間」といった課題に悩まされてきました。
そこで、観光産業の基礎力向上をはかりながら各種デジタル技術を活用し、これらの課題を解決しようという取組が、観光庁が主導する「これまでにない観光コンテンツやエリアマネジメントを創出・実現するデジタル技術の開発事業」に採択された「鹿島アントラーズを基軸としたエリアマネジメントの変革」事業です。
鹿島アントラーズサポーターを基軸に、鹿行地域は観光地としてどのような姿を目指しているのか。「鹿嶋デジタルトランスフォーメーションコンソーシアム」に話を聞きました。
▼1試合平均2万人を集客する鹿島アントラーズのポテンシャル
「鹿嶋市は地域の代名詞とも言える鹿島神宮、そして鹿島アントラーズをはじめ、多くの観光資源を備えています。年間の観光客数も目標の300万人に迫るなど、元来、高いポテンシャルを持った地域と言っていいでしょう。ところがその反面、地域を訪れる観光客の90%が日帰り客で占められ、なかなか地域の観光消費に繋げられずにいる現状があります。そこで、1試合の来場客数が平均2万人(2019年度)という鹿島アントラーズの集客力を活かしながら、様々なデジタル技術を活用して地域の観光振興を目指すのが今回の取組の主旨となります」(株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー マーケティンググループ セールスチーム・矢橋伸一氏)
鹿島アントラーズの試合数は、年間およそ20試合。これだけでも40万人近い集客がある計算になりますが、試合終了直後には毎回、帰路につく観戦客による渋滞が慢性化していることから、周辺地域への誘客や回遊性の向上は急務であると矢橋氏は語ります。
そのため今回の事業では、鹿行地域全体の観光活性化を目指し、DXを取り入れたエリアマネジメントに取り組みます。
「具体的にはまず、NFC(※近距離無線通信)タグ等を利用して、サッカー観戦に来られた皆さんに、スタンプラリー感覚で地域を周遊してもらいたいと考えています。地域内に設けられたタッチポイントをめぐることでポイントが付与され、たとえば指定のクラブ公式グッズと引換可能なサービスが受けられるなどのメリットを提供する予定です」(矢橋氏)
合わせて特設サイト上には、タッチポイントとなる飲食店や観光名所が一覧できる観光マップを用意。カシマサッカースタジアムや鹿島神宮を起点に、周遊地域への誘客や回遊性の向上を促します。
「また、こうした取組に合わせて、地域の観光産業の基礎力を強化することも現状の課題の1つです。せっかく誘客しても、キャッシュレス決済に対応していない、通信状況が良くないなど、質のいいサービスを受けられないようでは意味がありません。このあたりのサポートも進めていきたいと思っています」(同)
▼サポーター同士を繋げるバーチャルスタジアム構想
今回の取組ではさらに、新たな観光需要の掘り起こしだけでなく、デジタル技術を駆使し、従来のサポーターをいっそう盛り上げるための施策も進められています。
たとえば、実証実験期間にはカシマサッカースタジアム内の飲食店(一部)で、混雑状況に合わせて価格変動を行う「ダイナミックプライシング」の導入を予定。また、画像解析によって混雑状況をリアルタイムに可視化することで、サポーターの人流誘導を促しスムーズな回遊を目指します。さらに、オンラインでは次のような取組も。
「現在、カシマサッカースタジアムを訪れたサポーター同士を繋げるコミュニティ形成に取り組んでいます。バーチャル空間上に『バーチャルカシマブース』を設定し、鹿島アントラーズ所属選手やチームのマスコットキャラ『しかお』のアバターと交流したり、シューティングゲームをお楽しみいただいたり、更にはユニフォーム等3Dアイテムの展示も予定しています。本実証実験の結果を踏まえて、将来的にこの『バーチャルカシマブース』が、サポーター間の新たな交流の場になればと考えています」(同)
一方で、長引くコロナ禍により、実証実験に向けた準備には様々な苦労もありました。
「まず、Jリーグも無観客試合を強いられたことからスタジアムに集客できず、技術面の検証が遅れたことが1つ。さらに、緊急事態宣言に伴う移動制限で、スタジアムへの視察が思うように進まなかったことも大きな障壁になりました。それでもどうにか、企画面でも技術面でもできるかぎりのチャレンジを行い、エンジニアにとっても観戦客の皆さんにとっても新規性の高い取組が実現できたのではないかと思います」(同)
この11月、鹿島アントラーズの有観客試合に合わせ、満を持して行われる実証実験。スポーツツーリズムを基軸としたエリアマネジメントの貴重な事例として、その成果を楽しみに見守りましょう。
最後に……
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