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観光DXが生み出すサステナブルな観光と稼ぐ地域づくり!【後編】

 去る12月2日、観光DXを推進する観光庁観光資源課 新コンテンツ開発推進室の佐藤司氏、株式会社やまとごころ 村山慶輔氏、NTTコミュニケーションズ株式会社 戸松正剛氏によるウェビナーが開催されました。

 観光産業においてDXがもたらすものは何か。地域が稼ぐ力を取り戻すために、いま何をするべきか。前編に続く今回は、観光DXの具体事例を追いながら、稼ぐ地域づくりのために必要なことについて議論しました。

■観光庁が掲げる「観光DX推進緊急対策事業」の3つの柱

――令和3年度補正予算案に、観光DXに関する事業が盛り込まれているところ、観光産業のDX化は社会の大きな関心事となっていますので、まずはこの補正予算の用途について佐藤室長からご解説をお願いできますか。

佐藤:観光庁では、補正予算を投じて「観光DX推進緊急対策事業」を実施したいと考えています。当面はウィズコロナを強いられることを踏まえれば、今後の観光は安心・安全と切り離して考えることはできません。また、地域全体で稼げる仕組み作りも重要だと考えています。

そこで「観光DX推進緊急対策事業」では、3つの柱を設けました。1つ目は観光地の密を避けるための混雑回避や移動の円滑化。これはたとえば、センサーやカメラで撮影した映像等の情報から人流の分散化を図るなど、データを有効活用した取組を想定しています。

2つ目は観光消費を地域全体に広げるための周遊促進で、こちらはダイナミックプライシング等デジタルと親和性の高い施策が考えられるでしょう。そして3つ目は、観光消費を一過性で終わらせないために、来訪者のリピーター化を狙うこと。一案としては、観光客の購買活動や移動情報を分析し、適切なレコメンドに繋げるような取組をイメージしています。

――なるほど。では具体的にはどのようなアイデアが考えられるでしょうか。

村山:1つ目の混雑回避で言うと、私がちょうど先日訪れた城崎温泉(兵庫県)の取組が好例かと思います。城崎温泉では7つの外湯巡りが人気で、それぞれの混雑状況が街中に表示されているんです。最も有名な湯宿は「120%」となっている一方で、「30%」、「50%」と表示されている湯宿もあり、だったら空いているところへ行こうと、自然な分散が促されるわけです。

観光DXの観点では、こうした取組をいかにオンライン化していくかが課題で、それはいかに顧客と向き合って頭を働かせられるかと同義であると思います。海外の博物館や美術館を見ていても、非常にデジタルの活用に長けていて、顧客をいかにファン化し、リピートに繋げるための施策が巧みなんですよ。日本はこのあたりが遅れていて、見習う点は多いと感じます。

戸松:いまから数年前、日本がインバウンド市場を2,000万人から5,000万人にしようと頑張っていた頃は、英語表記の看板やメニューが不足していることが問題視されていましたよね。当時はテクノロジー活用としてはもっぱらAIを使った自動翻訳やサイネージにフォーカスが当たっていましたが、一方で私は、真逆の方向に振り切ってしまうのも手だと思っているんです。いっそ日本語の表記もやめてしまって、街中の看板等も全てノンバーバルに徹すれば、そうした言語対応の問題は解消するはずですから。

実際にオランダのアムステルダム等多言語対応が必須なホテルでそれに近い体験をしたことがあるのですが、実はこれは日本の得意な領域なのではないかと感じたのが、先日の東京オリンピックでした。あのピクトグラムの工夫をデジタルと掛け合わせることができれば、言葉を使わなくてもコミュニケーションが取れるのではないかと。

村山:言うなれば、ノンバーバル・ツーリズムということですよね。名案だと思います。

――最近のパソコンやスマートフォンの取扱説明書も、言語に頼らず図解で説明するものが増えていますね。

戸松:そうなんですよ。観光産業も同様で、言葉を使わないことでフリクション(摩擦)のない周遊が実現できるのではないでしょうか。

■観光産業が“稼ぐ力”を取り戻すために求められるものは?

――ここまでのお話を踏まえて、観光が今後、力を取り戻すために求められるものは何でしょうか?

佐藤:専門家であるお二方からこうしてさまざまなアイデアをお聞きしていると、DXはあらためて、現状の観光産業の課題を解決するために有効なものだと実感させられます。問題は、デジタルはあくまでツールの1つでしかなく、それ自体を目的としてはいけないということですよね。人流データにしても、採取するだけで満足してしまっては意味がないわけです。

戸松:おっしゃる通りだと思います。地域と観光を分けて考えてみると、まず地域は「経営」を意識しなければなりません。その手段として、ゆるキャラや箱物に頼るのは悪いことではありませんが、それがその地域も最も重要な課題を解決する手段になり得るのかどうかが重要です。来年、再来年も持続的に回せるモデルを考えるべきで、そのために民間の知見や資本が必要であるならうまく連携し、共創していくのがベストでしょう。

他方、観光産業においては、既成概念からいかにはみ出してビジネスモデルを創出できるかが課題です。ある飲食業では、いくつかの地域でレストランを展開することを実験と位置づけていて、各地で価値のある食材を探し、新たなレシピ開発等を行います。それをその地域に限定せず、良いものは選りすぐって他地域や中央に展開していく、というモデルに挑戦しているんです。これは飲食業でありながら食品メーカーのご当地商品開発のコンセプトを借用した発想で、参考事例は他業界に視野を広げて貪欲に求めていかなければならないと思います。

村山:私が常日頃から考えているのは、“一本足打法”ではいけないということです。たとえば観光のための施策と、移住者を誘致する施策は似て非なるものですが、両輪でまわしていくのが地域の理想なはず。観光産業に絞って考えてみても、インバウンドも内需も両方とりにいくべきで、そうでなければこのコロナ禍のように突然一方の市場がなくなった際、事業は立ち行かなくなってしまいます。

そしてもう1つ、絶えず変化し続けることも大切だと思います。いまで言えばオミクロン株の登場でコロナ禍の収束がまた遠のいていますが、ただ完全収束を待って感染状況をただ追うのではなく、それによって市場のニーズがどう変わっているのかを、敏感に察知しなければなりません。その上で、自分たちに何ができるのか、どう備えるべきなのか、知恵をしぼる必要があるでしょう。

――それが本当の意味での地域の“稼ぐ力”に繋がる、と。

村山:そうですね。とはいえ、「ITとDXって何が違うの?」という層を置き去りにしてもいけません。むしろ、最初はそういうスタートラインで構わないので、戸松さんもよくおっしゃっているように、とにかく何でもいいからまずは手をつけてみることです。もしそれで成果が得られれば、それで勢いづくこともあるでしょう。

――お三方のお話から、DXにはさまざまな好事例と可能性が秘められていることが、よくご理解いただけたのではないかと思います。各地域の観光事業者の皆さんにとって、良いヒントになれば幸いです。本日はありがとうございました。

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