「観光×DX」が創り出す、地域の新たな価値提供とは
■観光×DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か?
情報化社会と言われて久しく、私たちの生活はあらゆる面においてICTとの融合が進んでいます。今やスマートフォンは生活必需品となり、テレビやエアコンなどの家電は、IoTによりネットワークにつながることで従来以上の利便性を発揮するようになりました。
そのような中、昨今ことさら耳にする機会が増えているDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉。これはまさに、人々の暮らしをデジタル技術によって向上させようという概念を表す言葉であり、今日では様々な産業でDXが推進されようとしています。
ただし、注意しなければならないのは、DXとはすなわちデジタル化を指すものではないという点です。DXが捉える視野はより広く、デジタル技術やデータの活用によってモデルをアップデートさせ、提供する価値を抜本的に底上げすることを目的としています。
ところが、日本の観光業はデジタルの活用において、他の産業に比べて著しく遅れていると言わざるを得ません。
そこで観光庁では先だって、観光DXを力強く押し進めるために、「これまでにない観光コンテンツやエリアマネジメントを創出・実現するデジタル技術の開発事業(以下、開発事業)」及び「来訪意欲を増進させるためのオンライン技術活用事業(以下、活用事業)」の公募を実施しました。
■地域の観光資源を強力に発信する5つの開発事業と12の活用事業
今回、開発事業において採択されたのは、技術開発や地域観光モデルの構築につながる5つの事業です。それぞれ、5G技術や顔認証技術といった最先端技術を生かした観光開発プランが明らかにされ、すでに実証実験に向けて動き始めています。順に見ていきましょう。
1.鹿島アントラーズを基軸としたエリアマネジメントの変革(鹿島デジタルトランスフォーメーションコンソーシアム)
鹿島アントラーズの本拠地として知られる茨城県鹿嶋市では、高精度位置測位やビッグデータ解析、5G、XRといった技術を軸に、混雑度の可視化と渋滞回避、混雑情報に合わせたダイナミックプライシング、情報発信の高度化などの実現を目指します。鹿島アントラーズサポーターを対象に、今秋から実証実験を行う予定。
2.XR技術を用いた屋外周遊型XRテーマパーク開発事業(世界へ発信する屋外周遊型XRテーマパーク開発プロジェクト)
神奈川県横浜市では、XR技術や3次元地図データによる高精度位置認識技術を用いたXRバスツアーを実施。赤レンガ倉庫や中華街といった観光スポットを擁しながら、インバウンド需要の引き込みが遅れていた課題を念頭に、満足度の詳細な測定によって収益化モデルの構築を目指します。運行は11月を予定。
3.顔認証と周遊eチケットを融合した手ぶら観光の実現(富士山エリア観光DX革新コンソーシアム)
山梨県富士吉田市をはじめとする富士山周辺エリアでは、顔認証や周遊eチケット、そしてデータ解析を融合させることで、“手ぶら観光プラットフォーム”の開発を目指します。周遊eチケットによって交通や決済の利便性を向上させることで、エリア内の回遊性を高めます。実験開始は11月を予定。
4.次世代型ガイド価値拡張プラットフォーム事業(観光ガイド活性化連携協議会)
兵庫県姫路市では訪日外国人に向けて、360度仮想空間構築技術やガイド独自情報集積技術を駆使し、姫路エリアをオンライン仮想空間に再現。よりテレプレゼンスの高いオンライン多言語ガイドサービスや、ストック型デジタルコンテンツの作成を目指し、アフターコロナのオフライン需要の流入を創出します。
5.5G・自動運転・XRが創る「どこでもテーマパーク」(コンフォートデジタルツーリズム事業化推進協議会)
福岡県北九州市では、自動運転技術とXR技術を融合させ、エリア全体をひとつのテーマパークのごとく有機的に機能させる「エリアテーマパーク化手法」の開発を目指します。自動運転に加え、趣味や混雑状況に合わせて観光・物販サービスを提案するAI観光コンシェルジュを実現し、高齢者に優しい観光サービスを創り出します。
注:いずれも内容は申請時のもの
また、これら5件の開発事業に続き、去る6月1日には12件の活用事業も採択されました。
こちらはいずれも、DXの推進によって新たな観光需要を開拓し、来訪意欲の増進を目指すもの。それぞれの詳細については後続の記事に譲りますが、いずれも5GやXRの技術を駆使した新たな取組ばかりです。効果的なDXの活用が、観光シーンにかつてない価値をもたらすことにつながるでしょう。
■DXがカギを握る、アフターコロナの観光業の活性化
今回の採択事業にも見られるように、5G技術や高精度位置測位、XR技術によってサイバー空間が身近なものになれば、観光の在り方、そして観光客に提供できる価値そのものが大きく変わります。
折しものコロナ禍で各地の観光事業は遍く大打撃を受けました。ここ数年好調だったインバウンド需要も、当初の想定とはかけ離れたものになりつつあります。
しかし、アフターコロナには急回復が見込まれる世界の観光需要。その時に備え、改めて地域の魅力や資源を見直し、最先端技術を駆使した新たなコンテンツ開発を行うことは重要です。
引き続き、観光DXの最新事情と事例をレポートしていきたいと思います。