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観光DXが生み出すサステナブルな観光と稼ぐ地域づくり!【前編】

 去る12月2日、観光DXを推進する観光庁観光資源課 新コンテンツ開発推進室の佐藤司氏、株式会社やまとごころ 村山慶輔氏、NTTコミュニケーションズ株式会社 戸松正剛氏によるウェビナーが開催されました。

 観光産業においてDXがもたらすものは何か。地域が稼ぐ力を取り戻すために、いま何をするべきか。前編となる今回は、DX化に向けて観光産業がいま取り組むべきこと、そしてそれを阻む課題について掘り下げました。

■観光産業がDX化するために、まず何から始めるべきか

――読者から寄せられた最初のトークテーマは、「観光業/旅行業におけるDXは何から始めるべきか?」です。観光業はことさらデジタル化への対応が遅れていると言われていますが、DX化にあたってまず着手すべきポイントは何でしょうか。

村山:私は観光業が取り立ててデジタルと相性が悪いとは思っていないんです。ただ、デジタルに苦手意識を持つ人が多いジャンルであるのは事実でしょう。そこで大切なのは、いま身近でやっていることの“棚卸し”から始めることではないでしょうか。SNSの運用やオンライン予約の受付など、実は既にDXされているところも多数あるはずです。

実際、ある旅行代理店では、60~70代をターゲットにLINEでのコミュニケーションをはかり、好評を得ています。その背景には、コロナ禍でなかなかお孫さんに会えない方が、頑張ってLINEの操作を覚えたことがあるのですが、要はシニア層にとってDXは縁がないものという決めつけを排除すれば、チャンスは広がるんですよ。

戸松:たしかに、日頃いろんな地域の方と話をさせていただいていて、DXという言葉を敷居の高いものだと感じている人が多いのは事実だと私も感じています。そういう層にかぎって、闇雲に新しいツールを独自に開発しようとするケースも目立ちますが、そうではなく、まずは既存のツールを探してきて、とにかく使ってみることが先決だと思います。

すると、デジタルを活用した際の時間やお金の直接的な投資対効果だけでははく、自社が本当にデジタル化すべき業務が浮き彫りになり、課題が鮮明になりますし、社内の意外な人材がデジタルへの対応力を秘めていることを発見し、適材適所が進むようなことも起こるでしょう。さらに、システムベンダー等外部の力を借りたために必要最低限の言葉の意味も理解できるようになるなど、「まず使ってみる」だけで、さまざまな副次効果が期待できますからね。観光庁主導でいま動いている17の実証事業も、そうしたトライ&エラーの集積ですよね?

佐藤:そうですね。DXの手始めとしては、「試してみる」、「真似してみる」ということが非常に大切だと思います。今回の17事業は2本柱で、新たな観光コンテンツやエリアマネジメントに必要な技術を開発する通称「開発事業」と、既存のデジタル技術を用いて地域への来訪意欲を増進させようと取り組む通称「活用事業」があります。このうち「開発事業」についてはどうしても大掛かりになってしまいますが、「活用事業」についてはライブ配信等地域のコンテンツをデジタルで発信する事業が中心で、比較的真似しやすいのではないでしょうか。

――映像配信はだいぶ身近なものになりましたから、これはたしかに真似しやすいかもしれませんね。

佐藤:たとえば青森県の取組でねぷた祭りを配信して好評を得たように、その地域ならではのコンテンツというのが必ずあると思います。オンラインでそうした魅力を広く発信し、産品を物販することは、各地域で実践できるはずですから、コロナ禍で集客が難しい時期こそ、ぜひ試してみていただきたいですね。

■観光産業のDX化を阻む課題とは

――続いて、「観光産業の現状。課題や期待することは?」という質問をいただいています。これからのウィズコロナ時代、観光産業はどう変わっていくでしょうか。

佐藤:新型コロナウイルスがもたらした変化は多岐に渡りますが、私は2つのポイントに注目しています。まず、これまで以上に「安心・安全」が求められるようになったこと。つまり今後は、観光産業でも密を避ける仕組みづくりや、非接触型の決済手段の導入等を進めた上で、旅行者が地域全体を周遊できるような環境を整えなければなりません。

次に、大人数での行楽が難しくなったことから、団体客を対象としたマネジメントだけでなく、個人に着目したマーケティングを行う必要があるということ。近年、マイクロツーリズムという言葉が注目されているように、個人あるいは少人数にターゲティングした施策を打つことが、リピーター獲得のカギだと思います。

戸松:そうですね。一方で、私は既存の観光業の延長線ではない発想に期待しています。私はDXを「二階建ての借物競争」と呼んでいるのですが、一階部分はお話しした通り、既存のサービスを使い倒すこと。そしてそれを経て、二階部分では産業の垣根を超えて、他業界からどんどんコンセプトを拝借してくるべきである、ということです。

たとえばあるホテル経営者の方は、自社のことをホテル業ではなくエージェント業だと表現しています。客室にお客さんを収容する “ストック型”のビジネスではなく、人を地域のアクティビティに送客する、“フロー型”のビジネスをホテルは本業とするべきだ、というのです。これは従来のホテル業界をベンチマークしているのではなく、むしろリクルート等マッチングを得意とする他業種に倣ったコンセプトなわけです。

――なるほど。それにより新たなビジネスモデルが生まれる、と。

戸松:また、これまでのホテル業はマーケットの最大公約数を見出してそこに訴求する努力をしてきましたが、今後は個々のお客さんにカスタマイズされたサービスが求められます。こうしたパーソナライズはデジタルと非常に親和性が高い領域ですからね。こうしたヒントを、DXで先行する他業界に学ばない手はないでしょう。

村山:おっしゃる通りだと思います。観光産業の中だけで物事を考えていては新しいことは生まれないので、たとえば「観光×農業」、「観光×漁業」など、他産業との横串によって面白いコンテンツを生み出していかなければなりません。

また、繁閑差の対策も大切で、2年前までは人の少ない平日をインバウンド観光客が埋めてくれていましたが、いまはそうもいきません。そこでデジタルによって他業種の需要とマッチングすれば、たとえばホテルの空き部屋をイベント利用に貸し出すなど、新たな稼ぎ方が可能になります。

佐藤:今回、カシマスタジアムでの開発事業でも実証が行われましたが、ダイナミックプライシングの導入も一案ですよね。

村山:そうですね。まさしくDXに期待されるものの1つだと思います。それに、先ほど佐藤室長がおっしゃったように、少人数での旅行ニーズが中心になっていくことを踏まえれば、今後の観光産業は“量より質”を重視すべきだと私は思っているんです。

そこで重要なのが「高付加価値化」と「ファンづくり」で、インバウンド事業に携わっていると、海外からのお客さんに、「日本のホテルは安すぎる」とよく言われます。つまり富裕層が求めるハイクオリティの商材やサービスが不足しているわけです。サービスの質を上げ、単価を底上げした上で多くのファン(リピーター)を獲得できれば、観光産業の生産性は大きく向上します。

――では、そうした観光産業のDX化を目指すにあたり、目下の課題は何でしょうか?

村山:DXの話になると、人間の雇用が失われるという不安を口にする方が一定数いますが、デジタルと人は共存できるはずです。人力でなければできない作業はまだまだたくさんありますし、デジタルに頼ることで効率化できる部分も少なくありません。二者択一の議論にするのではなく、両者の力をうまく活用してサービスの付加価値を上げていく視点が必要ですよね。

――ありがとうございます。後編では観光産業が稼ぐ力を取り戻すために必要なことを、更に掘り下げていきたと思います。

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(つづく)